第1回「しあわせのかたち」

記念すべき、一番、最初、なので

何を取り上げるべきかアレコレと悩んだ。

チャンネルの方に合わせるべきなの?

はたまた、「今が旬」のものを取り上げるべきなの?

それとも誰からも愛される「オールタイムベスト」を取り上げるべき?

悩んだ結果こうなった。

 

しあわせのかたち」(画像挿入予定地)

桜玉吉

 

旬でもなければ、ベストでもない。

結果自分の好みモロ出し。

そもそも言ってしまえば、別に「今」を知っているわけでもないし

そうかと言ってベストにも疎い。

興味が向くまま生きてきたんだからしょうがないね。

と今更気付く。

 

桜玉吉さん

僕の人生に大きく影響を与えた巨匠。

マンガスキーじゃないと「誰それ?」と返ってくること請け合い。

あさのいにおさんだって玉さんのこと好きなんだぞ

と追い打ちをかけても、大半は「そうなの?」で終わる。

学生時代は玉さんを知っているかどうかで友達を選んでいたので、その結果2人しか友達を作れなかったのはいい思い出さ。

 

しあわせのかたち

ファミコン通信で連載されていた「しあわせのかたち」は

3人の主人公的な存在がゲームの世界に入り込んで、プレイヤーが操るキャラになったり、敵対するキャラになったりしてゲームの内容を紹介するギャグ漫画だった。

それがいつの間にやら桜玉吉本人が登場して彼を取り巻く日常を描き始める。

日常編になっても最初はゲームにまつわる話をしていたのに

次第にそれが薄れていって、しまいにはゲーム誌掲載とは思えない私漫画に変貌していっちゃう。その様が当時若かった僕にはセンセーショナルすぎて。

だって意味がわからないでしょ?

ゲーム誌なのになんら関係ない日常を描くなんて。

誰が予想できたの?

 

でもそれがすごくおもしろかった。

全く予期しない場所で、全く予期しない漫画に出会う。

あまつさえ後半は電波漫画なる「ラブラブルート21」なんてい暗黒舞踏をたしなむ青年のドラマが始まったりする。

ファミコン通信でですよ?どこにもゲームの要素がない上に暗黒舞踏って。

それでそれがおもしろいって。

なんていう作家なんだろうと、なんていう雑誌なんだろうと

僕のその後の人生に大きな影響を与えたに決まっているでしょう!

なんもかんも関係ないんだ。そんな世界もあるんだと初めて思った瞬間でした。

それからどんどん踏み外していって、「しあわせのかたち」後半では鬱展開と呼ばれる、自分を含めた周囲の人間の嫌な部分を悉く活写していく話が展開されていく。

最初のころのほんわかギャグ漫画は一体どこにいったのかと。

同じタイトルの中で前半と後半でここまで味が変わるものもなかなかそうそう見受けられないのではなかろうか。

言うなればおいしくカツ丼をたべているとなにやら米の下からコーンフレークが現れてあまつさえその下からは熟したフルーツも現れその汁をコーンフレークが十分にすってしまって口の中があわや大惨事。

なんてことですよ。

 

店構えはしっかりしていて、店内の調度品も雰囲気も良く好みが合えばすんなりとうけいれられるだろう。

頼んだカツ丼も一口食べると口腔内にしあわせをさんざ振りまいて舌もとろける美味である。

コーンフレークやフルーツに関しても厳選に厳選を重ねた素材が生きたものだろう。

それが折り重なっていることに目をつぶるか、あるいはその調和こそを楽しめるか。

そんな奇特な舌を持つ者が一体どれほどいるのだろうか。

その危惧がこの老舗を勧める勇気を今一つ持てない理由なのだ。

 

はて?なんの話だったか。

 

そうそう「しあわせのかたち」の話。

そういった塩梅で連載後半から一気につげ義春ばりのリアルとフェイクを織り交ぜた幻想世界へと誘われる。

かわいい絵柄でそういった狂気の沙汰を描くあたりに桜玉吉さんの唯一性を感じさせてくれるし、そもそもこういった漫画をファミコン通信というゲーム誌での連載を許していた編集サイドの度量もスゴイ。

後に続く防衛漫玉日記の中ではレギュラーキャラクターとして登場するO村さんが編集長を務めた「コミックビーム」が、桜玉吉さんの漫画を掲載するために生まれたという逸話もグッとくる。

それからずっと、今でも玉さんと対立するO村さんとして描写され、時に傷をなめあったり、異常に心配したり、再びいがみあったりと、男の友情譚として楽しめる。

現代のジョースター家とツェペリ家かよ!とツッコミたくなる。

そんな異色な漫画家桜玉吉がゲーム誌で描いた「しあわせのかたち

望んでも二度とは出ない作品だと思う。

それは時代性というものも多分に影響していたに違いないから。

また悲しいかな望まれてもいないような気がする。

それでも間違いなく漫画史の大きな流れの中の一筋の力強いものだと思う。

誰かを熱狂させるには十分すぎるほどの魅力があると思いますので。